冷たい手 She had very very very cold hands. So I was surprised and very sad.












俺はの隣に座ったとき、手をイスの上に何気なく置いた。本当に本当に何気なくだ。 彼女の白い手と俺の手がほんの少しだけ触れる。 これもまたさりげなく、本当に触れるか触れないかってくらいほんの少しだけ。 その瞬間、俺は驚いて反射的に手を引っ込めた。 何に驚いたかって?それは彼女の手が驚くほどに体温を持っていなかったからだ。 別に彼女と手が触れたのが嫌だったわけじゃない。 むしろ嬉しいとすら思ったくらいだったのに俺の体はの体温を反射的に拒否し受け付けなかった。






「お前冷え性?」
「え、なんで?」
「手、冷たすぎ」
「あらまー。でもシリウスだって冷たいじゃん」






俺はほんの少しだけ重苦しく言葉をはなった。自分の低めの声が少しだけふるえていた。 別に寒かったわけでもない。なのに、なぜか声がふるえた。情けねーなあ・・・・・。くそっ・・・・。 は、俺とは正反対の軽くはずむ明るい声色だった。いつもの彼女だ。 少なくとも俺にはそう見えた。そう見えるだろう、と自分に暗示をかけていた。 こういうときに魔法使いって便利だよな。とふと思った。 だけど人の気持ちをかえるだなんて、まだ半人前の俺には到底無理な魔法だった。 つくづく自分が未熟だと思い知らされて歯がゆくてしょうがなかった。 まあ、一人前の魔法使いでもそんなことできる奴めったにいないと思うけど。






「お前のが冷てーし」
「今夜は結構冷えるからじゃないの?たぶん」
「そこまで寒くねーよ」
「え、そう?」
「あちーよ。夏だし」
「あ、そっか」




は、ゆっくりとまばたきをしてまた膝の上の本に視線を落とした。 長い睫毛が彼女の白い頬に薄い影を落とす。 そして口元に薄く笑みを浮かべる。それは何か悟ったかのような笑みで俺は身震いをした。




雪の降り積もる冬はとっくに過ぎさって今はもう夏だっていうのに、の体温は驚くほど低かった。 俺も元々体温低い方だと思っていたのに、彼女の方がもっと低い。 今までいつも彼女のそばにいて、何度も体にだって触れてきた。 の性格、口癖に癖、仕草、体温だってなんだって知ったつもりでいた。 それなのに、なんだ俺は今更になって彼女の体温の低さに驚いているなんて。おかしな話だ。 俺は知ったつもりでいただけで、本当は何も知らなかったのかもしれない。 なんて滑稽すぎるんだと自分を嘲笑った。




「私、もともと体温低いだけだよ」
「・・・・・・・・・」
「うん、別に病気とかじゃないし」
「・・・・、・・
「心配しないでね、シリウス。大丈夫だから、私」

「・・・、・・・・本当に大丈夫・・・だから」





じゃぁ、その涙はなんなんだよ?何で泣くんだよ、




彼女は微笑みながら涙を流した。嘘なんかつくんじゃんねぇよこの野郎。 はらはらと、透明な涙が彼女の白い頬を伝って、落ちていった。 冷たいと言われた両手で顔を覆って泣くがとても小さくて儚く見えた。 なんで泣くんだよ、と問いかけると彼女は言う。 え、これ・・、・・鼻水だよ。だとよ。何だその言い訳。笑えねえよ。





夏の太陽が窓を通して、この部屋に光を注ぎ込む。 彼女の儚くて白い肌にそれが当たってキラキラ光った。 彼女の冬の白さと太陽の夏の空気が混じるこの部屋は、 なんともミスマッチで今思えば多少は笑い話になったんじゃないかと思う。 まあ、こんなので笑える奴がいるのかどうかなんて俺には想像できないけど。 俺ならたぶん乾いた笑いをひとつもらすだろうな。





そのとき俺ははらはらと綺麗に儚く、小さく泣き崩れる彼女を抱きしめてやることしかできなかった。





いっそのこと俺の体温を奪ってくれれば良かったのにと思った。 けれど、そんなことは叶わぬただの白昼夢に過ぎなかった。





今でもあのときの彼女の冷たい手を、彼女の涙を忘れることができない。












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俺の体温を全部残らずもっていってくれよ、そうすりゃお前の手もあったまるだろ