はやくはやく、もっとはやく走ってよこのおんぼろ汽車め!まったくこんなんじゃいつになったらロンドンにつくのか分かりゃしないわ。








おかえりなさいの声







私は大きなトランクとホグワーツ入学のとき、両親にねだって買ってもらった相棒のふくろうと共にがたんがたんとおんぼろ汽車にゆられている。 窓を上にぐっと持ち上げて大きく開くと、イギリスの少し乾いた風がすっと吹き込んできた。あ、気持ちいー。私はその風の心地よさにふっと目を細めた。 相棒のふわふわしたのどあたりを指で軽くなでてやると彼はほーっと低く優しく鳴いた。彼のご機嫌はまあまあといったところのようだ。





がたんがたんがたたん
このおんぼろの鉄の塊は規則的な音をうるさく奏でながら走っては、時折せきをするように、むせたような音を出す。 私は窓を大きく開けたままそこから顔を突き出して外の風景を楽しみじっくりと味わった。 洒落たことを言ってみたけども、今の私は心ここにあらずといった風だった。ああ、あの無駄に広い城が恋しいわ。 それ以上にあいつに会いたいと思ってしまった女々しい自分がいる。ほれた弱みとでもいうやつか。なんだか悔しいぞこんちくしょう。





どこまでも続くような田園風景が目の前に広がっている。キングズクロス駅まではまだまだ遠いみたいだ。 あの懐かしい空気がいっぱいつまった駅にこの老いぼれた鉄の塊ができるだけはやくついてくれるのを私はとにかく願った。







がたんがたんがたたん
それから2時間くらいたって、おんぼろ汽車は次第にスピードを落とし出し、ついにがたんと威勢のいい音をたててキングズクロスの駅に到着した。 急ブレーキをかけてくれたおかげで浅くすわっていた私ははずみで前に飛び出しおでこをがつんとぶつけてしまった。 大きなトランクをいくつかとその上に乗せた相棒をワゴンにのせておろし、気持ち少し赤くなったおでこをさすりながらすたんと駅のコンクリートに足をつけた。






私はワゴンに乗せた重たい荷物をがらがらと音をたててひいて、誰か知り合いはいないものか駅構内を歩いて回った。 きょろきょろとしばらくあたりを歩いて回ったけれど、ホグワーツに行く風な人は誰一人として見つからなかった。 ふくろうやら、大きなトランクをいっぱいもった私を駅員が怪訝そうな目つきでじっと見ていたので私はあわてて9と4分の3番線ホームへと向かった。





「あ、リーマスだ」
「やあ、





ホグワーツ特急の止まっているホームに入ったとたん私の周りは見知った顔でいっぱいになった。 久しぶりに会った友人に声をかけつかけられながら、ごった返す人の波を掻き分けかきわけ進んだ。 そしてそこに一番仲が良い親友の一人、やさしい鳶色の髪の毛の彼を見つけた。





「久しぶりね。夏休みはどうだった?」
「そうもこうも暇でしかたなかったよ。遠出も特にしなかったしね」
「あら、暇だったなら電話でもしてくれればよかったのに」
も暇だったわけ?」
「うん。暇だし暑いしでそのうち溶けるんじゃないかと思ったくらい!」
「あはは、それは悪いことしたなあ」
「そうよ全く!リーマスも薄情だね」





私が怒ったふりをして頬を少しふくらませると、ごめんごめんと眉を下げてリーマスは笑いながらそういった。 今度バタービールおごってくれたら許してあげるよ。と私はちらりと彼を見て言った。分かったよ、とリーマスはやさしく言った。





「ねえリーマス、リリーたちは?」
「ああ、たぶん先にコンパートメントに行ってるんじゃないかな」
「そか・・・・」
「・・・・・・・」





じーっと彼が私の顔を見ていることに気がついて、何か顔についてる?と私は聞いた。すると彼はううん、と一度会話を区切り、その後で一言付け加えた。





「シリウスならあっちにいたよ」
「!」
「あははそんな隠さなくたっていいと思うけどなあ(ばればれだし)」
「う・・・ん・・・・あ、ありがと・・」
「どういたしまして。じゃあ、あとでね」
「はーい・・・(見透かされてるなあ)」






リーマスはそういい残して重そうなワゴンを引きずりながらも、ホグワーツ特急へと軽やかな足取りで乗り込んでいった。 残された私はちらりとトランクの上に乗っかった相棒にちらりと目配せをした。彼はほーっとだけ低く少しとげとげしく鳴いた。 まるでさっさと会いにいけばいいじゃねーかよ。とやきもちをやきながら言ったかのようだった。






どうしたものか、と私はレンガの壁に寄りかかって少し考え込んだ。そうしていたら、遠くで、と呼ぶ声がした。ような気がした。 声のするほう見やるとそこには、私がここにくるまでの汽車のなか、いや日本にいたときからずっと会いたいと思っていた人の影があった。 その影がかつこつと人ごみのホームをかきわけてこちらへと歩みを進めてくる。ああ、どうしよう。





私は久しぶりに会えたよろこびと戸惑いとが入り混じって頭の中が混乱しはじめていた。 頭をかかえて私が困り果てて、動揺している間にもしだいに足音は間違いなく近づいてきている。 ぴたりと足音が目の前でちょうどとまり、足元をみやるとしっかりと革靴を履いた足があった。





恥ずかしさで顔をあげずに黙りこくっていると、聞きなれた私の大好きな低い声で彼は言った。





ひさしぶり





いつものシャープな尖った声色は少しやわらかく彩られていた。





顔をあげたらきっとたぶん、やっぱり私が大好きなパーツのばっちりそろった奴がいるんだ。うれしすぎて恥ずかしさはふっとんでもどかしさもどこかへ消えた。 なんだかにやけてしまう。みっともない顔はやっぱり見せたくないので私はしばらくうつむいて顔を上げることができなかった。 これでこそ、長い間あのおんぼろに揺られながらも帰ってきたかいがあるってものだわ。としみじみ思った。


















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しみこんでかけめぐってかきまわす、それはなんてあまいひびき