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抱きしめたいな
(あのとびきり不細工で愛おしい笑顔で笑っていてほしいんだ。夕焼けみたいな朱色に頬を染めながらさ)










「何してるの?」





ひょっこりと顔をのぞかせたのは見慣れた顔で、僕はさほど驚くこともなく軽く頷くのみの動作をした。 彼女はカタン、と音をたてて椅子をひいた。そして僕の目の前の席に当たり前のように腰を下ろす。 片手に持った百味ビーンズの箱が少しだけゆれて、中身のビーンズがじゃらりと小さく音をたてた。




「うん、なんか魔法薬学の課題追加されちゃってさ。参ったよ」
「何、居眠りとかしてたの?」
「いやそういうわけじゃないんだけどさ。実験で薬品爆発させちゃったからその罰ってことでね」
「あーあれすごかったもんね。またいたずらでも始めたのかと思ったよ」




あはは、と声をたてて笑う。マダム・ピンスがぎろりとするどい視線を投げかけてきたので、彼女は慌てて口をつぐんだ。 わたわたと口を押さえたあとそっと手をはずして、マダム・ピンスがこちらを見ていないことを確認してから、マダムに向かって舌をべーっとつきだした。 とびきり不細工で愛らしい表情。するとマダムがまたこちらをくるりと振り返った。彼女はまたバツの悪そうな表情を浮かべる。 その様子がなんだかおかしくて今度は僕の口からクスクス、と笑い声が漏れてしまった。




「・・・リーマスのせいで怒られちゃったじゃん」
「僕のせいなんだ?(クスクス)」
「そうだよ、もう」




頬を膨らませて怒る彼女の顔は、夕日のせいだろうか、少し赤みを帯びていてまた一段と愛らしく見えた。




「そうなんだ」
「そうだよ」
「それは悪いことしたなあ」
「うん私傷ついたよ。だから今度ハニーデュークスまでお菓子買いに連れてってね。はい決まりー」
「え、だってこの間の休暇に行ったばかりじゃないか」
「だってお菓子もうないもん」
「・・・もう?やっぱりは食い意地はってるなあ」
「え、バタービールもおごってくれるの?リーマス太っ腹だねやった!」
「・・・・・・(そんなこと言ってないんだけどなあ)」




ぱらぱらと本のページがかすれる音が静かに静かに、かなり遠くのほうから聞こえる。僕たち以外にも誰かいるらしい。姿は見えないけれど。 ここにくるといつも聴覚が研ぎ澄まされたような気になる。大嫌いなあの夜のように周りがありえないほど静かに思えてくるのだ。




「あとちょっとしたら卒業式だね」
「あ、もうそんな時期なんだっけ」




思いついたようには言ったので僕も何気なく返事をした。カリカリと羽ペンが規則的な音をたてながら、動きを進めてゆく。 彼女が昔から憧れているという一つ上の先輩も今年卒業するのだという。少し目を伏せて寂しげな顔。長いまつげが彼女の白い頬に影を落とす。 こんな顔してるの初めて見たかもしれないなあ。いつもにこにこしてるか、妙にぷんぷんしてるかだから、彼女は。 でも切なそうな表情をするんだなあと少々失礼なことを考えていたのだけれど、次の瞬間そんなこと全くないんだと僕は思い知らされるのだった。




「でもね、卒業式楽しみなんだ、私」
「なんで?」
「だっていつもよりもっとごちそうなんだもん。最高じゃん」
「・・・あー・・・・そういうこと(結局は食い気なんだね)」
「うん。特にデザートとかすごく豪華だもんね。私クリスマスとハロウィーンと卒業式が好きだよ」
「へえ・・・・」




僕の気のないような返事に彼女はとくに気を悪くする風でもなく、ただおなかすいたなあー、とは小さく小さくつぶやいた。 そして何気なく、あー・・うんと小さくうなずいた。何?と僕は本から目を離して彼女に視線を向ける。




「え、いや卒業式のごちそうはいいけど、自分たちが卒業することになったら嫌だなあと思ってさ」
「そっか、うん僕も嫌だなあ卒業なんて」
「でも私やっぱり早く卒業したいなあ」
「・・・どっちなんだい?」
「うーん・・たぶんどっちもだよ。ほら今私大人でもない子供でもないただの17歳だからね」
って時々おかしなこと言うよね」
「えーそんな褒めないでよ照れるじゃん」




意味もなく髪をわしゃわしゃとかき混ぜる彼女の頬は、窓から差し込む夕日に照らされてほんのりと朱色に染まっていた。 目を細めて笑うを僕は心底愛おしいと思う。犬や猫とかを見て思う可愛いっていうのとか、ジェームズやシリウスに対しての感情とかとは違うらしいんだ。 こんな感情を自分の内側に住まわせたのは初めてだから、いま少しだけ胸の奥がくすぐったいんだよね。 そんなこと言ったら彼女はまた僕の顔を見て、リーマスもおかしいじゃん!なんて憎まれ口をたたいて笑うんだろうな。 あの抱きしめたくなるくらいの愛おしい笑顔でさ。 そう考えたらなんだかおかしくて、僕は一人喉をならしてくすっと笑い声をもらした。は不思議そうに目をくりくりさせて僕を見る。 ああ、 抱きしめたいな






















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ぼくはゆうやけをもうでのなかにとじこめてしまいたいのかもしれない