「ねえー、なんで私じゃだめなんでしょうかねえ?」
「・・・・あ、僕に聞いてるわけ?」
「いえーす。さあ、25文字以内でこたえたまえよ」
「というか質問の意味が理解しがたいのでこたえません」
「!(ひ、ひどい!)」









はちょう、みだるる  僕のいらいらはつのるばかりでとどまるということを知らないらしい









うわーん、と大声をあげながらがグリフィンドールの談話室に飛び込んできた。
ああ、やっぱり僕の静かな空間は彼女によって破壊されるものだと決まっているのかもしれない。僕は少し顔をゆがめてためいきをついた。
右手に持っていた紅茶のカップを音を立てないようにテーブルの上において、開いていた魔法薬学の教授に渡された退屈な本をぱたんと閉じた。







「で、今日はどうしたわけ?」
「うん。まあ、つまり私は例の彼に告白というこっばずかしいものをして見事に粉々になったというお話なんですけども」
「あ、つまりふられたんだね。オーケー理解したよ」
「・・そ、そんなにはっきりふ、ふられたっていうことないじゃん・・!(傷つく!)」
「粉々って、自分で言ったじゃないか」
「それにしたって・・、も、もうちょっとこう・・言い方がさあ・・あるでしょうに・・、ねえ・・」
「だって結果的に言えばそういうことでしょ」







僕はにこりと笑みをうかべて、ぐすぐすと鼻をすするに言った。ストレートすぎるこの言葉に思いのほか、彼女は傷ついた様子だった。
だけどそのときの僕はいらいらしていてしょうがなかったから、そんなことなんかお構いなしだったんだと、いまさらになって気がついた。
このいらいらはどこから来たんだろうか。ここ最近、いやかなり前からこいつは僕の中にとどまり続けている。つもりにつもった正体不明のこいつ。なんなんだいったい。







やっぱり話聞かなくてもいい?とに聞いたら、リーマスってばうそつきだずるいんだ、とひどく不細工な顔でそういわれたの。
そうなるとぐうの音もでなくなってしまった。
ここはやはり僕も約束は守らざるおえなかったので、分かったよと両の手のひらとに見せるように軽くあげて降参のポーズをとった。
僕が観念したことに満足したのか、はにんまりと顔いっぱいで笑った。いらいらは少し鋭さを緩めた。







彼女は僕の向かい側にひざを抱えて座って、意外にもしっかりした口調で話し始めた。
僕は何も言わず、うつむきながら話す彼女のつむじを見ていた。
一応好きだということは伝えたけれど、他に付き合っている人がいるのだそうだ。だから、はそいつの彼女にはなれない。
更に言えば、そいつの彼女は才色兼備のパーフェクトな子だからどうにもかなわない。まあ、要約すればそういうことだ。
さっきまで湯気を上げていた紅茶も今ではすっかり冷たくなっているだろう。それにカップのそこには砂糖がたっぷり沈んでいる。







誰もいないこの空間を独占したくて僕は一人このソファに座っていたのに、いつのまにかその空間は音も立てずに消えていた。
欲しくて欲しくてたまらないと思っていたあの空間が消えたことに気づきもしなかった。
彼女が独りなんていらないでしょ、とでも言うかのように入ってきたから。
だから僕はあっさりとしっかり握り締めた両手を開いて彼女に見せられたのかもしれない。







たぶんは今悲しくてしょうがないのだろうけど、僕はどこかで彼女がふられて良かったと思っている。
誰もいなかった僕独りの空間には、彼女がぐすぐすと不細工に鼻をすする音と、ソファがぎしっときしんだ音だけが響いた。







ぽたっと、何かの雫がのスカートの上に落ちた。その雫の正体は分かりきっていたけれど見てみぬふりをした。何もいえなかった。
雫がなんなのか。それに加えてさっきの僕の笑みと彼女の笑顔に含まれる意味の違いがはっきりと手に取るように分かってしまった。
僕、特に知りたいわけでもなかったんだけどね。勘が鋭すぎるというのも考え物だなあ。
それは一瞬穏やかになった波をまたいらいらの波に変えた。彼女をここまで振り回せる奴の顔がふいに思い浮かんだ。
とても腹立たしかった。僕のはちょうは乱れたままだ。










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後でわかったこと。あのいらいらはたぶんただの嫉妬だったということ。