Thank you! I love you!
それはたぶん誰も予期できなかった事態。だって、私だってこんなところ人に見せたくもなかったわできることなら。
本当にタイミングの悪い女なんだなあ私。そして彼もすごくタイミングの悪い人なんだろうなあ。と強く思った。
「・・・ペティグリュー?」
「え、うわっ・・!」
「・・・・・・・」
「・・・・・やあ、こん、にちは」
「こんにちは・・・」
まあつまり状況をスマートにまとめれば、一人で泣いているところをペティグリューに見られてしまったというだけのこと。
とても気まずい空気がすーっと流れる。彼は何を言えばよいのか分からないらしく、ただいつものようにおろおろしていた。
私も私でへたりこんだまま、狭い範囲をおろおろと動き回る彼を見上げていた。涙の筋をふくことすら忘れていた。
自分の間の悪さには、ほとほと嫌気がさした。はあっと浅く吐いたつもりのため息も、無意識のうちに暗く深いものになっていた。
くそう、なんでこの人こんな時間にこんなとこにいるんだろうか。絶対誰もこないと思って急いでここに逃げ込んだのに。
誰にもこんなひどい顔見せたくないと思ってたのに、どうしてこうもうまい具合に裏目に出るんだろう。全く私は運のない女だな。
「あの、だ、だいじょうぶ・・?」
「え、やー、・・・うん。まあ一応」
ペティグリューは、私が見る限りのいつもの様子でおどおどとゆっくり話しかけてきた。
大丈夫、と聞かれて、あまり大丈夫ときっぱり言い切れる状態ではなかったけれど、とりあえず大丈夫だとこたえておいた。
そ、そう。なら良かった。とペティグリューは、へらっと頼りなさそうな笑顔で言った。
いつもおびえたような表情しかしないのかと思えば、そういう表情もするんだ。と妙な発見をしたような気分だった。
知らずのうちに涙は乾いてどこかへいってしまったようだ。でも鼻はすすりすぎて赤いだろうから、まだ大広間にはいけないわ。ぐすん。
「あの、君夕食まだなんでしょ・・・?」
「・・うん。そうだけど、なんで?」
「え、や、こんなところにいていいのかなあ、と思って・・・」
「あんまりおなかすいてないからいいの。それより、ペティグリューこそ食いっぱぐれるよ」
「・・・うん。でも、もうちょっといたいんだけどいい・・かな」
「・・え、・・・うん。どうぞ、です」
鳩が豆鉄砲でも食らったかのような顔をする私に、彼は驚き、嫌だったらいいんだ・・・!と慌てて両手を振ってそう言った。
ふふっと笑って、いいよいてと私は言った。ペティグリューはへへっと笑って私の横に少し間をあけて腰を下ろした。
なぜか一瞬だけ彼の横顔がとても凛々しく見えた。軽く目をこすってもう一度見直したときには、いつものおどおどした彼だったけど。(え・・なに・・?と小さく言った)
あまり親しくない人にいらぬ心配をされるのは余計なおせっかいと思ったのもあったし、何より泣き顔を見られたのが恥ずかしいと思った。
それなのに私は涙の滲んだ目のままで、またふふっと小さく笑みをこぼした。
彼の臆病なハロー、の響きはすでに闇の中深くに溶け込んでしまっていた。